MENU

2015年11月27日

エイジングケア

ガンを減らした国、増やした国

予防医学R2
今年も川島なお美さんなど多くの著名な方が、ガンで亡くなりました。
皆さんもご存知のように、日本ではガン患者が増え続け、2人に1人がガンになり、3人に1人がガンで死亡すると言われています。

何故そうなのか?今回は、日本の「ガン」の現状について、触れたいと思います。

厚生労働省の人口動態統計によれば、ガンによる死亡数は、2001年:300,658
人、2006年:329,314人、2011年:357,305人、2012年:360,963人です。そして、2015年(本年)の死亡数予測は、370,900人と言われています(国立がん研究センターによる)。
日本は医療先進国と言われていますが、これだけガンによる死亡数が増え続けているのは、どういうことでしょうか。

世界には、日本とは逆にガンを減らしている国もあります。アメリカです。
日本とアメリカは総人口が違うため、人口10万人当たりのガン死亡者で比較すると、日本人の死亡者はアメリカの1.6倍となっています。しかも、日本ではガンが増え続けているのに対し、アメリカでは減り続けています。

しかし、その米国も、今から40年ほど前、ガンや心臓病患者をかかえ、医療費はパンク状態でした。その状況に対し、「医療改革は待ったなし!」として、1977年、米国上院の「栄養と人間のニーズ特別委員会」が「アメリカ合衆国の食事目標(通称マクガバン・レポート)」を発表します。
これは、国民が抱える疾病の原因は肉食中心の食生活にあるとし、食生活が命を奪う死病の元と言ったものです。
全米に大きな衝撃が走りました。

これを契機に、アメリカでは病気を予防する研究や取り組みが加速的に進みます。2年後の1979年、日本でいう厚生省にあたる、国立衛生研究所(NIH)が、健康政策に数値目標を定めて体系化した「ヘルシーピープル」を策定。
これは、何年間に野菜の消費量をこれだけ増やそう!喫煙はこれだけ減らそう!といった数値目標が何百と盛り込まれたものです。
マクガバン・レポート以後、アメリカ人が理想とした食事は、野菜、果物、全粒穀物・大豆をたくさん摂り、脂肪の多い食品を避け、肉食から魚肉に切り換える、といったものです。
お分かりの通り、これは、日本の伝統食にきわめて近いものです。
当然の如く「日本食ブーム」も起こり、インテリジェントな健康食だとして賞賛されます。アメリカではこのように、「食」に対する関心が高まり、食生活に変化が生じました。

そして、ガンはどうなったのか?
マクガバン・レポートから18年後の1995年。アメリカ国民一人あたりの野菜摂取量は日本人の摂取量を上回り、それに合わせてガンも減少に転じます。
70年代から80年代にかけて、年平均1.2%ずつ増えていたガン死亡率は、90年代を通じて6%減ります。アメリカは、先進国で初めてガンを減らすという快挙を成し遂げたのです。

一方の日本はどうでしょうか?
一例を挙げれば、ファーストフード店の上陸など、米国では「命を奪う死病の元」とまで言われた「アメリカ型高カロリー脂肪食」に移行しています。
メタボが増え続け、ガン患者が増え続けています。
世界でも有数の医療先進国と言われているのに、です。

実際、日本の医療技術は素晴らしく、先進的でないわけではありません。
日本でガンが減らない理由には、医療技術以外に大きな根本的要因があると考えます。それは、「予防」に対する考え方です。ここがアメリカと根本的に違います。

予防医学、という言葉を聞いたことがあると思います。
これはその文字通り、病気を予防するための医学です。
予防医学は、一次予防から三次予防まで、大きく3つに分かれます。病気にならない一次予防、病気を見つける二次予防、社会復帰を指す三次予防です。

日本は、どこに力を入れていると思いますか?そして、アメリカはどうでしょう?

日本では、著名人のガン報道に連動し、「ガン検診」の話題が多いと思いませんか?
「日本の医療は世界の最先端!検査機器も素晴らしい。皆さん、ガンは、初期に発見できれば治る病なのです。積極的に検診を受けて、早期発見、早期治療を目指しましょう。」

「最新の検診機器が開発され、ごく小さなガンも発見出来るようになりました。ともかく検診を受けましょう!」

こんな話やPRが良く聞こえてきます。これは、一次予防、二次予防、三次予防のうち、病気を見つける「二次予防」の対策です。

反対に、ガンを減らした米国は、病気にならない「一次予防」に徹底的に力を入れ、成果を上げました。
「マクガバン・レポート」や「ヘルシーピープル」は、食事・禁煙・運動に関する、病気にならない「一次予防」の施策です。
これを国家レベルで実践した結果が、ガンの減少につながったわけです。

この違いを見て、私は二次予防よりも、一次予防の方が大切だと思うのです。
日本では、二次予防に比べ、一次予防にはほとんど力が入っていないと感じるのは私だけでしょうか?
ガンにならない、病気にならないための「食事」「禁煙」「運動」などの一次予防にもっともっと力を入れるべきです。

どうして、日本では一次予防に力を入れないのでしょうか?
ここには、現在の医療体制に問題があると考えます。

一次予防を推進するためには、医療の現場で「食事・禁煙・運動」に関する指導をする必要があります。例えば、ちょっとした高血圧には、すぐに薬を出すのではなくて、栄養指導をすることが求められます。
しかし、現在の医療体制では、こういった栄養指導などには保険点数が少ししかつきません。病院も、ボランティアではありませんので、ビジネスとして成り立たなければならないのですが、保険点数が少ししか付かないのでは、収益が少なくなってしまうのです。

この現状を変えるためには、医療体制を改革して栄養指導の保険点数を増やし、医療のトップである医師の皆さんに「栄養学」を勉強してもらう(現状、医学部のカリキュラムには、栄養学はほとんど入っていません)。そして、栄養指導に重点を置くのです。
これは、薬漬け医療からの脱皮にも繋がります。

しかし、現実問題として、体制の変換には時間が掛かるでしょう・・・。日本の医療現場には、これを変えられない、とても難しい問題が存在しています。詳しくは、過去のコラム「もしもガンになったら日本の医療を信じますか?」(アメブロに移動します)を参照下さい。

医療制度の改革がダメであれば、どうすればいいのでしょうか。
それは、私たち一人一人が栄養学の知識を身に付け、一次予防に焦点をあて、ガンや病気からの自己防衛に努めるしかありません!
検診で早期発見を目指す(二次予防)だけでなく、そもそも病気にならない生活を目指す(一次予防)のです。

そうはいっても、何をどうすれば・・・という方に、良い情報があります。
1990年に発表されたアメリカの食事指導「フードガイド・ピラミッド」を、日本の食文化に合わせて進化させた「日本版食事ピラミッド」というものがあるのです。
これは、上段ほどガン予防の可能性が高いことを意味しています。参考にしてみると良いでしょう。

食品ピラミッド

(図・・日本版食事ピラミッド)

簡単に説明しておきます。
一番下の4段目から順に。まずは一日400gの穀類を摂りましょう!
3段目。野菜は350g、肉類は100~200g(獣肉よりも魚肉を)、大豆製品を多く摂る。大豆にはイソフラボンという成分が含まれており、国内では、大豆食品摂取の多い都道府県ほど、乳ガン、卵巣ガン、子宮体ガンが少ないことが確認されています。
2段目。乳製品は100~150g、果物は100~200g。果物と野菜は、抗酸化作用のあるフィトケミカル(アンチエイジングにも効果的)をたくさん含みます。
抗酸化、というのは、体の酸化に対抗する、ということです。これは、ガン予防につながります。
最上段。みそ、香辛料、ハーブ、きのこ、海藻類、ナッツ類は20~30g。ここには、抗ガン作用が非常に強い食品が並びます。
きのこに含まれるβ-グルカンは免疫力を高め、ガン細胞を殺す働きがあります。

このような食事を心掛けたら、ガンのみならず、糖尿病、高血圧、心臓病、脳卒中などの生活習慣病も防ぐことが可能です。

まとめますと、野菜や果物を多く摂り、肉類と酒類を控えて、高カロリー脂肪食を避ける。そして、適度な運動と禁煙です。これで、75%もガンのリスクを軽減できるということが判明しています。

現在、ガンに罹患している方も、食生活や生活習慣の見直しをしてみてください。ガンの進行は遅くなり(時には止まる)、QOLも改善されることでしょう!
善は急げ!です。

参考文献:
『「食」で医療費は10兆円減らせる』 日本政策研究センター 渡邊昌 著

——————————————————
※番外編コラム筆者紹介
——————————————————
サンプライズ株式会社
代表取締役社長:元井益郎
薬剤師、NR(栄養情報担当者)、日本抗加齢医学会認定指導士。
1946年生まれ。東京薬科大学薬学部卒業。ジェーピーエス製薬株式会社入社・退社後、サンプライズ株式会社設立。東京大学や慶應義塾大学など、国内の著名な大学機関と抗加齢に関する共同研究を行っている。趣味は山登りとマラソン。

元井 益郎

薬学博士/社長

1分も走れないペンギン歩きから、世界7大陸最高峰を目指す70代に。

\ この記事をシェア /

pagetop